蜷川実花「うつくしい日々」

2017年の蜷川実花の写真集。撮られているものはいわゆる日常風景で、蜷川実花といえば、の、あの華々しい感じじゃない。

 

何枚かはっとする写真があった。もともと、ありふれた街並み、なんでもない風景みたいなものが好きなのだけど、そういうものを撮った写真だから惹かれたということだけじゃなくて、写されている光景の、その日の光の感じが伝わってくるような、そして自分の記憶のなかのいつたわったかを想起させるような、そんな綺麗さに惹かれた。お花が散りばめられてなくても、色彩感覚は蜷川実花的なのかな。

 

ありふれた風景に愛おしさを感じるのは、一度限りのこの生を生きているからだと思っている。

この写真集は、蜷川実花が、父・蜷川幸雄の死の前後?の日々を写したもので、そんな状況設定を知れば、ありふれた風景の尊さは強化される。

松本人志「遺書」

期待はずれだった松本人志のプロフェッショナル本、そのAmazonレビューであげられていた「遺書」も購入した(遺書の方が全然面白かった、というレビューが目立っていた)。

 

読んでみたら、たしかにこっちの方が面白い。

プロフェッショナル本では全然語られていなかった、松本の笑いのセオリーの内容についても多少触れられているし(まぁ、決して多く書かれているわけではなくて、塙本の方が全然面白かったけど)、個人的には、松本人志の持つ、純な感じ、ナイーブさみたいなものが出ているところが特に良かった。

 

家族・実家へのいたずらについて真摯に憤ったり、板尾創路の事件について温かく見守るよう頼んだり、東京に出てきてまだ売れずにくすぶっていたころ親切にされたタクシーの運転手さんへの感謝を書いたり。

 

あとは浜田愛。

 「仕事が終わってからいっしょに遊ぶことなど絶対にないし、プライベートな部分はいっさい知らない。でも、あいつのことはだれよりもよく知っている」

「松ちゃんより浜ちゃんのほうが好きと言われればムカつくが、浜ちゃん嫌いと言われてもムカつく」

「だれの誕生日も覚えないオレだが、気持ち悪いが浜田の誕生日だけはなぜか覚えてしまっている」

 とか。

 

最近の松本について、この本を書いたころの志が失われている、というレビューもあったが、このような内面のナイーブさ、そしてそれを表に出すのはめちゃくちゃ恥ずかしいというやはりナイーブな感覚は、いまの松本からも感じる。そこに好感をもった。世代ではないから、笑いの質が変わったのかはわからない。

松本人志 仕事の流儀

ダウンタウン松本がNHKのプロフェッショナル出たときの取材をもとにした本。

 

f:id:suzukibooks:20190910223255j:plain

 

塙のM1が面白かったから、その中で塙が「一生、松本さんの背中を追いかけ続けようと誓いました」「心の師匠は生涯、松本さんです」とまで書いてた松本について、もっと知りたくなって読んだのだけど、これは内容が薄かった。

 

まずは単純に文字が少ないし(これは出版社の問題か)、松本人志の、大事なところを言語化しないで、自分だけわかってればいい、みたいな語り口が、本にもかかわらず出ていて、物足りなかったという感じか。

 

僕は世代じゃないけど、例えばテレビを見てる父親が、やっぱり松っちゃんは天才って感じなんだよな、とかつぶやいているのには、わかるところがある。

天才ではあるが、天然ではなく、明らかに理論を持っているタイプ。その笑いのセオリーを知りたかったから、肩透かしだった。まぁインタビューして、番組からこぼれた部分だから、仕方ないのかも知れないけど。

 

全体としては不調だったけどいっちばん最後、相方の浜田よりは先に死んで、弔辞を読んでもらわなきゃいけない、ってくだりは、ほんとに素から言ってる感じがしてぐっときた。

 

塙宣之「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」

集英社新書プラスというウェブ媒体でナイツの塙がM-1について語って、それがバズって生まれた本。

関東芸人はなぜM-1で勝てないのか?【第1回】 – 集英社新書プラス

 

ウェブ記事の段階で読んでめちゃくちゃ面白かったので、1冊の本になったのを知ってすぐに買って、読んだら期待通りの面白さだった。

 

「関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」はもともとの記事のタイトルでもあるのだけど、この本で書かれるのはまずはナイツ塙による「M-1論」であり、同世代や先輩・後輩芸人について語る「芸人論」でもあり、自身の哲学を明かす「お笑い論」でもあります。

感想としては、プレーヤーとしてももちろん一流の塙だけど、解説者・評論家としては超一流。M-1論も芸人論もお笑い論も、どれも頷くポイント多数。客観的な分析力と、M-1への、芸人たちへの、お笑いへの、愛の深さを感じました。

 

>笑いは語るものではないと言う芸人もいますが、そう言っている時点でもう語っていますから。僕はむしろ、この場を借りて、大いに語ろうと思います。


言っている通り、大いに語ってくれています。歴代の優勝者のどこが優れているのかの分析や、トムブラウン、マヂカルラブリーのような非・王道漫才をどう評価するか、笑い飯の「チンポジ事件」についてなど、塙の考えが知れて本当に面白い。

お笑い好き、そしてお笑いを語るのが好きな人には、絶対に読んでほしい一冊です。

相澤いくえ「モディアーニにお願い」(1)

ビッグコミックの増刊号で読んで、気になっていたら数日後にブックオフで1巻だけが100円で売られてて、プチ運命を感じて購入。

東北の小さな美大が舞台で、1話完結をベースに進んでいくストーリーもいいのだけど、絵がいい、特に「光」の描写がきれい。

 

僕が今まで知っている漫画だと、光を捉えようと思ったら、松本大洋のように、明と暗のコントラストで魅せる、というのが白と黒の漫画の世界では、主流だったように思う。

物質としての光というか、水や空気やガラスにぶつかり、乱反射しながら通り抜けていく、透明感のある光の描写がこんなにきれいな漫画は、あまり僕は見たことがない。 

ネットによれば、作者の相澤いくえ自身、美大の出身だそうだが、そういう、光を描くということに、もともと関心があったんじゃないかと、勝手に想像している。

主人公の千葉が専攻しているのもガラスだし。表紙を見ても、「雲の切れ間から差す光」「水たまりに反射する光」「ガラス細工や水滴にきらめく光」が描かれてる。

 

 

ストーリーもキャラクターもいい、1巻からわりと内容盛りだくさんな感じ、さっそく既刊の2~4巻もポチった。楽しみ。